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非常用持ち出し袋について考える(上) ~あなたにとって、適切な非常用持ち出し袋とは?~

地震、洪水などの災害に備えて、非常用持ち出し袋(以下、非常用袋)を用意していますか?「もちろん持っている」と答えた方に尋ねます。非常用袋にはどんな袋を使っていますか?また、どのくらいの量を袋に入れていますか?                                  袋の種類や形状、荷重量によって、私たちの身体的・心理的負担への影響が変わってきます。災害が起こって避難する際に、少しでも負担を減らせるよう、あなたにとって適切な非常用袋を備えましょう。                                                    これから、あなたにとって適切な非常用袋を選ぶためのポイントをご紹介します。既に非常用袋を持っている方は、袋の性質や荷物の重さを確認してみて下さい。まだ持っていない方は、これから非常用袋を用意する際の判断材料として、以下の事を参考にして頂ければと思います。

1.非常時の持ち出しに適した袋とは?

災害が起こっていざ避難しようとする時、緊急の度合いによって変わって来るとは思いますが、恐らく誰もが、何か自分にとって必要な物を持ち出そうとすると思います。その時に、あなたはどんな袋に入れて避難しますか?考えられる袋の種類としては、手提げ袋、ショルダーバッグ、リュックサックでしょうか。本章では、それぞれの袋が心身に及ぼす影響についてみていきたいと思います。

1-1.手提げ袋

1-1-1.手提げ袋で運搬することによる人体への影響

結論から言うと、手提げ袋は他の袋と比較して人体への負荷が最も大きくなります。荷物の運搬方法について実験した研究者らの報告をまとめると、以下の心身的影響があることがわかりました。

 

1.生理的負担                                       心拍数・酸素摂取量・エネルギー消費量・エネルギー代謝率の増加

 

2.心理的負担                                       主観的疲労感の増大

 

1-1-2.手提げ袋での運搬が心身的負担を大きくする理由

なぜ、手提げ袋で運搬すると心身への負担が大きくなるのでしょうか?

原因の一つとして考えられるのが、「重心の偏り」です。身体の左右どちらか一方に重心が偏ると、私たちは姿勢を保とうと、無意識のうちに筋肉を使います。筋肉を使うには酸素やエネルギーを要するので、酸素摂取量やエネルギー消費量が大きくなります。また、多くの酸素を身体中に運ぼうと心臓のポンプが活発に作用することから、心拍数が増加します。身体がこれだけエネルギーを使っているため、心理的にも疲労感が増すのは道理にかなっていると思われます。

仮に、左右どちらにも手提げ袋を持ってバランスを取っていたとしても、手提げ袋は体に密着していないため、重心動揺が他の袋と比べて大きくなります。そのため、重心を安定させようとして前述した原理が働き、エネルギーを多く消費することになります。

研究者の報告では、手提げ袋で荷物を運搬すると、頭部が前方へ傾き、身体は一側へ傾斜すると言われています。歩く時の姿勢の崩れも報告されていることから、関節や筋肉、靭帯への負担も大きくなるのではないかと考えられます。

また、手提げでの運搬は、持続的に筋肉を働かせる必要があります。そのため、身体的負荷が大きくなると考えられます。

これらの心身への負担は、目的地まで移動するときの所要時間や歩数にも影響しています。手提げ袋とリュックサックにそれぞれ荷物(内容は同じ)を入れ、それぞれを携えて一定の距離を歩いた時の所要時間と歩数を比較した実験があります。実験の結果、リュックサックよりも手提げ袋の方が所要時間がかかり、歩数も多いことがわかりました。手提げ袋の場合、歩く以外に、姿勢制御や荷物を手で持つことにもエネルギーを要しており、このことが、所要時間や歩数に影響していると考えられます。

以上のことから、手提げ袋を長時間携行することは、日常においても災害等の非日常においても、私たちの身体に負担が大きく掛かるということがわかりました。

 

1-2.ショルダーバッグ

それでは、ショルダーバッグはどうでしょうか。ショルダーバッグも、手提げ袋ほどではありませんが、心身への負担が大きいと報告されています。具体的には、以下の影響があると言われています。

 

・生理的負担                                        酸素摂取量・エネルギー代謝率の増加

 

・心理的負担                                        肩への痛み、重みを感じる、不安定で歩きにくい

 

ショルダーバッグも手提げ袋と同様、身体の一側に荷物を携行するため、重心の偏りが大きくなります。実際に研究者がショルダーバッグを携行したときの姿勢を分析したところ、斜め掛け・片側掛けどちらのパターンでも、バッグを掲げた側とは反対側に身体が傾いたことが報告されています。また、頭部でもバランスを取っていることがわかりました。このように、重心の動揺が大きいので、バランスを取るために姿勢を制御する必要が生じます。その結果として、2-1-2.で述べた生理的作用が起こります。手提げ袋と比較して負担が少ないのは、手提げ袋のように腕の持続的筋肉活動がないこと、また、バッグと身体との密着度合いが関係してくると考えられます。手提げ袋と比較して、ショルダーバッグの方が身体との距離が近いため、手提げ袋よりも重心動揺が小さいことが考えられます。そのため、手提げ袋よりも姿勢制御のためのエネルギーを要さず、負担が小さいと考えることができます。

実験でショルダーバッグを携行した被験者は、不安定で歩きにくいという着用感を抱いています。また、肩の一方に荷重が掛かることから、肩への重みや痛みも訴えていました。

以上のことから、ショルダーバッグを長時間携行することは、日常においても、災害時等の非日常においても、私たちの身体に大きな負担がかかることがわかりました。

 

1-3.リュックサック

最後はリュックサックです。リュックサックには、携行することでポジティブな効果があることが報告されています。その効果は以下の通りです。

 

1.安定した歩行

リュックサックは、手提げ袋やショルダーバッグとは異なり、身体の左右両側に荷重が掛かります。そのため、重心は体の一側に偏るということはありません。支持基底面という、体重を支えるために必要な床面積の中で安定した動揺が起こるため、姿勢制御や歩行に要するエネルギーが小さく済みます。また、リュックサックは身体に密着しているため、重心の動揺が小さくなります。そのため、安定した歩行で移動することができます。リュックサックの着用感について、「歩きやすい」という被験者の意見も報告されています。

 

 

2.姿勢の矯正と腰部の負担軽減

リュックサックを背負うことで、姿勢改善効果があることが報告されています。リュックサックを背負うと、リュックサックと体幹の重心が後方に移動し、リュックサックと体幹の重心にかかる重力が身体の後方に掛かります。後方へ働く力を制御してバランスを取ろうと、腹直筋などの身体の前側にある筋肉が働きます。

また股関節も、身体が後方に傾かないようにするため、腸腰筋という股関節を曲げる筋肉が働きます。この腸腰筋は、骨盤に付着しているため、骨盤を前方に傾けるという作用もあります。腹筋が働くこと、そして骨盤が前方に傾くことで姿勢が矯正され、腰部への負担が減り、腰痛軽減につながると報告されています。

ご高齢の方は腹筋の活動が少なく、そのため骨盤が後方に傾いている人が多くみられます。リュックサックを使うことで腹筋と腸腰筋が活動し、骨盤が前方に傾くので、ご高齢の方にもリュックサックは有用であると考えられます。

 

 

3.両手が空く

阪神・淡路大震災の被災者やボランティアの間で、貴重品及び生活必需品を常に身につける必要性から、リュックサックは収納・運搬具として多用されていました。その理由として、「両手が空く」「楽である」などが挙げられています。また、その後の生活においても、その利便性から多く利用されているということが報告されています。

 

 

以上のことから、リュックサックは、私たちの身体に与える負担が小さいこと、そして、実生活でも多用されていることがわかりました。

しかしながら、リュックサックの形状や種類、使い方によっては、私たちの身体に悪い影響を及ぼすこともあります。それについては、次章で詳しく述べます。

 

 

1-4.まとめ

1章では、手提げ袋、ショルダーバッグ、リュックサックのそれぞれの袋について、人体に与える影響についてみてきました。

身体の一側のみに荷重が掛かる手提げ袋やショルダーバッグは、負担の程度の差こそあれ、心身に大きな負担が掛かります。それが長期に亘ると、関節の変形にも繋がってきます。子どもの場合、過大な身体的負荷がかかると、成長に影響を及ぼします。成人の場合でも、負荷を掛け続けることによって老化に影響してきます。そのため、心身の負担が比較的小さいリュックサックで荷物を運搬することをお勧めします。

 

一般社団法人全日本防災計画協会

黒田尚寛

阪神大震災に被災した方の話を聞くにつれて、地震のあまりに大きい被害を知りました。
また、その反面、人々が協力し合って、災害を乗り越えた話を聞き、心強さも感じました。
これから起こりうる自然災害からたくさんの人を助けたい、そう強く考えております。
その為に自分は何が出来るのか、日々模索し、鍛錬を積んでいきたいと考えております。

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