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災害・避難カードを使ったソフト面の防災対策(下)

(上)では災害・避難カードの概要について記載しました。ここからは、災害・避難カードを具体的にどのように使うかについてご説明します。

2.災害・避難カードの作成方法

内閣府のパンフレットによりますと、作成は以下の手順で行います。

〈ステップ1:取り組みの進め方を確認〉                           自治体、自治会、町内会の防災対策の現状を確認し、課題を共有してから、取り組みの進め方について決めていきます。

 

〈ステップ2:災害リスクを考える災害・避難カード〉                     発災時に遭遇するリスクについて、防災関係機関からの情報や過去の災害を基に意見交換を行います。

 

〈ステップ3:まち歩きで確認〉                               実際にまちを歩いて、危険箇所や頼りになる場所、避難経路を確認し、気づいたことを地図上に記入していきます。

 

〈ステップ4:災害・避難カードをつくる〉                          まち歩きや提供された情報を基に、避難行動に必要な情報を検討し、カードを作成します。

 

〈ステップ5:災害・避難カードを使ってみる〉                        災害・避難カードを使って、実際に避難訓練を行います。カードが活用できたら、地区住民にカードを配布し、普及させます。

3.災害・避難カードの作成による効果

災害・避難カードの作成に取り組む中で得られる効果は、大きく3つあると考えられます。それは、「防災意識の向上」、「避難に関する自主性の向上」、「コミュニティの形成・強化」です。

3-1.防災意識の向上

小出らは、災害・避難カードの策定に向けて、黒部川流域の地域住民にワークショップを行った結果、住民の防災意識の向上に一定の効果があると報告しています。ワークショップで災害のリスクに関する情報を得、グループで避難場所や経路を議論して、災害をよりリアルなものとして捉えることで、防災への意識が高まるのだと思われます。

 

3-2.避難に関する自主性の向上

財賀らは、住民の防災意識に関する研究において、防災意識が高まることにより、防災に対して自律的に取り組む姿勢に移行すると報告しています。災害・避難カードの作成は防災意識の向上に有効であることから、防災に対する自主性も生まれてくるのではないかと考えられます。実際、災害・避難カードは、住民自らが「どのように避難するか」を考え、議論することで作られていきます。そのため、避難に関する自主性の向上にも効果があると考えられます。

3-3.コミュニティの形成・強化

総務省統計局での国勢調査の報告によると、平成27年時点での世帯の状況は、単独世帯が最も多く、3世帯に1世帯の割合です。単独世帯は年々増加傾向にあり、コミュニティの脆弱化が懸念されています。                                            災害・避難カードを作成する取り組みの中で、地域の自治体・自治会・住民同士が意見交換を行うことで、コミュニティが作られ、強化されていくと考えられます。小出らは、前述のワークショップを受けて、その後家族間で避難場所や行動について話し合った人は、アンケート回答者全体の92%であったと報告しています。家族という小さなコミュニティを始め、地域のコミュニティを強化する上でも、災害・避難カードの作成は有用であると思われます。

 

4.災害・避難カードの実用例

発災時に災害・避難カードを活用したことにより、被害から免れた地域があります。愛媛県大洲市三善地区は肱川流域に位置しており、河川の氾濫による浸水被害が過去に何度も起こっている地域です。そういった経緯から、この地区は、内閣府の「災害・避難カードモデル事業」の平成28年度実施地区として選定されました。ワークショップ等を通じて、住民が災害・避難カードを作成し、実際に避難訓練を行い、全戸にカードが配布され、避難時にはカードを身につけるというルールが設けられました。                                            2018年7月の西日本豪雨では肱川が氾濫し、三善地区は約60戸が床上浸水しました。しかし、災害・避難カードの情報を基に、住民は適切な避難行動を取った結果、浸水した家に取り残された人はおらず、死傷者も出ませんでした。災害・避難カードの活用によって、住民全員が適切な避難方法を把握し、自主的に避難したことが、死傷者ゼロに結びついたものと思われます。

 

 

5.まとめ

以上、災害・避難カードの概要や効果、実用例についてご紹介しました。災害・避難カードは、地域住民の防災意識の向上、避難に関する自主性の向上、コミュニティの形成・強化につながり、実際の災害にも効果を奏した防災・減災ツールです。これを機に、家庭で、会社で、地域で、災害・避難カードを作成してみてはいかがでしょうか?

引用・参考文献

1)平成29年度改訂版 災害・避難カード事例集

  内閣府(防災担当)

2)防災カードのデザイン調査

  土屋雅人 日本デザイン学会研究発表大会概要集 55(0), 28-28, 2008.

3)地域住民参加による災害・避難カード作成時の工夫と考察

  小出亜希・桶川勝功・古本一司 

4)住民の洪水災害に対する防災意識の把握と向上化施策に関する研究

  財賀美希・藤井俊久・雁津佳英・松見吉晴 土木学会論文集F6(安全問題), Vol.67,No.2,I_185-I_190, 2011.

5)平成27年国勢調査 世帯構造等基本集計結果 結果の概要

  総務省統計局

6)避難カードが住民救う 豪雨災害の愛媛で地区死傷者ゼロ

  藤波優 朝日新聞デジタル 2018年7月26日,  https://www.asahi.com/articles/ASL7V4F9GL7VUBQU00D.html, 2018.

  

 

 

一般社団法人全日本防災計画協会

黒田尚寛

阪神大震災に被災した方の話を聞くにつれて、地震のあまりに大きい被害を知りました。
また、その反面、人々が協力し合って、災害を乗り越えた話を聞き、心強さも感じました。
これから起こりうる自然災害からたくさんの人を助けたい、そう強く考えております。
その為に自分は何が出来るのか、日々模索し、鍛錬を積んでいきたいと考えております。

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