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災害・避難カードを使ったソフト面の防災対策(上)

近年、日本各地で地震や台風、豪雨などの巨大な災害が発生しています。1995年頃までの防災対策は、堤防の強化や防波堤の整備等といったハード対策を中心に行われてきました。しかし、ハード対策だけでは防災として限界があることから、1995年以降は防災情報の整備や防災教育・訓練といったソフト対策の強化に目が向けられるようになりました。

ソフト対策の一つとして、内閣府は「災害・避難カード」という仕組みを導入するよう推進しています。今回は、「災害・避難カード」の概要と効果、実用例についてご紹介したいと思います。

災害・避難カードとは?

 災害が発生した時、安全に避難するための情報が記載されたカードです。必要な情報は、住民個人の立場や状況に合わせた内容が記載されます。避難時に災害・避難カードを携帯することで、住民一人一人が適切な判断や行動を取れるようにします。また、被災によって本人の意識がない状態でも、他者が災害・避難カードからその人の情報をすぐに確認できるように機能します。その他、災害の種類によって防災対策などの情報が整理されているのも、災害・避難カードの特徴といえるでしょう。

 

以下、災害・避難カードの種類や記載内容、機能についてみていきます。

 

 

 

(1)災害・避難カードの種類と記載内容

災害・避難カードには、目的に応じていくつかのタイプと記載内容があります。ここでは、内閣府が紹介している「災害・避難カード」の種類と記載内容、そして、土屋による災害・避難カードの記載情報の分類についてご紹介します。

1.内閣府が紹介しているカードの種類と記載内容

内閣府のパンフレットでは、「名刺タイプ」・「マップタイプ」・「タイムラインタイプ」の3種類が紹介されています。

 

 

 

〇名刺タイプ

二つに折り畳んで携帯できるカードです。財布に入れたり、首からかけたりして携帯することができます。避難する際に携帯しておくことで、他の人に自分の情報をすぐに伝えられるようにします。主な記載内容は、左側には氏名・住所・生年月日・血液型といった個人的な情報を、右側には緊急連絡先・避難場所・避難の合図・避難行動の内容等が記載されます。

 

 

例1) 愛媛県大洲市三善地区自主防災組織の災害・避難カード

   【カードの左側】

    氏名・住所・生年月日・血液型

   【カードの右側】

    緊急連絡先・災害伝言ダイヤルの使い方

 

 

例2) 石川県小松市岩渕町町内会の災害・避難カード

   【カードの左側】

    氏名・住所・生年月日・血液型・緊急連絡先・避難場所

   【カードの右側】

    避難の合図・避難行動の内容

 

 

 

〇マップタイプ

居住地区の地図上に、避難場所や危険箇所、過去の災害状況、避難時の留意点といった情報が記載されています。自宅の冷蔵庫など、必ず目に留まる場所に貼っておくことを想定して作られています。

 

 

例1) 東京都稲城市大丸自治会の災害・避難カード

避難場所・地区の危険個所(浸水想定区域等)・過去の災害状況・避難時の留意点等

 

 

例2) 愛媛県大洲市三善地区自主防災組織の災害・避難カード

災害情報の入手先・入手の手順・土砂災害の前兆

 

 

 

〇タイムラインタイプ

発災直後、避難情報の流れをタイムラインで掲載し、避難する上で「いつ」・「誰と」・「どうやって」避難するのかについてまとめています。

 

 

例1) 和歌山県那智勝浦町市野々区の災害・避難カード

気象庁等からの気象情報を受けて、自治体がどのように避難情報を流すのかをタイムラインで表しています。タイムラインに沿って、住民はどのような行動をとるのか、どこに避難するのかを記載しています。要配慮者をどのように支援するのかについても検討されており、この手引きは地区の全世帯に配布されています。

 

 

例2) 福岡県八女市立花町遠久谷行政区の災害・避難カード

例1と同様、気象情報と避難情報のタイムラインに沿って、「いつ」・「どのように」・「誰と」避難するかが記載されています。

2.土屋によるカードの記載情報の分類

土屋は、災害・避難カード(土屋は防災カードと表記)の現状について調査・分析し、記載情報について分類しています。その分類は、「共通情報」と「その他の付加情報」に分けられます。詳しくは、表1をご参照ください。

 

 

調査の結果、インターネット上で配布されているほぼ全ての「災害・避難カード」に、住所、氏名、生年月日、血液型、緊急時の連絡先が記載されており、「災害・避難カード」の持ち主を特定し、医療情報を救援者に伝える重要性が明らかになったとされています。

2.土屋によるカードの記載情報の分類

(2)災害・避難カードの機能

また土屋は、災害・避難カードには4つの機能があると報告しています。

 

 

A:個人情報伝達機能

 所有者本人の個人情報や緊急時の連絡先を他者に伝える機能です。

 

 

B:避難行動教示機能

 災害が発生した時の家族の避難場所や取るべき行動、災害伝言版ダイヤルの使い方説明、持ち出し品

 リストの確認などを示す機能です。

 

 

C:避難情報入手機能

 避難場所や街頭消化器、病院などの位置情報、公的救援の問い合わせ先、交通機関や電力・ガス・水

 道など社会インフラ情報の入手先など、避難行動の判断を下すために必要な機能です。

 

D:災害意識啓蒙機能

 日頃の備えや過去の地震災害の統計情報、その地域の被害予測など、災害前に学習する機能です。

 

 

ここまで、災害・避難カードの種類や記載内容、機能についてご紹介しました。下編では、災害・避難カードの作成方法や効果、実用例についてご紹介します。

 

一般社団法人全日本防災計画協会

黒田尚寛

阪神大震災に被災した方の話を聞くにつれて、地震のあまりに大きい被害を知りました。
また、その反面、人々が協力し合って、災害を乗り越えた話を聞き、心強さも感じました。
これから起こりうる自然災害からたくさんの人を助けたい、そう強く考えております。
その為に自分は何が出来るのか、日々模索し、鍛錬を積んでいきたいと考えております。

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