近年、我が国では、豪雨などの大規模な水害が多発しています。水害は、他の災害と比較して発生頻度が高いですが、他の災害と異なり事前に予測を立てることができるという特徴があります。予測を立てて事前に備えることで、被害を少なくすることができます。水害に備える方法についてみていきましょう。
1章では、我が国の水害発生状況や水害が多発する原因、そして、これから起こる水害はどんなものなのかについてみていきます。
近年、日本では水害が多発しています。2006年~2015年の10年間では、97.2%の市区町村で1回以上の水害が発生しており、10回以上水害・土砂災害が発生した市町村は47.7%もありました。
近年の大水害による被害状況を見てみましょう。
平成30年7月豪雨では、梅雨前線や台風7号の影響で西日本を中心に記録的な大雨に見舞われました。長時間の降水量が観測史上1位になるほどの大雨となり、広い範囲で河川の氾濫や崖崩れが発生しました。これによる死者は223人、行方不明者8人、家屋の全半壊等が20,663棟、家屋浸水が29,766棟と、極めて甚大な被害が広範囲で発生しました。被害額は1兆1,580億円となり、豪雨による被害として過去最大となりました。
また、令和元年8月九州北部豪雨では、線状降水帯による集中豪雨の影響により、九州北部で記録的な大雨となりました。佐賀県では内水氾濫が相次ぎ、街の約4割が浸水するという甚大な被害が生じました。2019年8月31日時点で報告されている人的被害は、死者3人、行方不明者1人、重傷者1人、軽傷者1人でした。住宅被害は、全壊1棟、一部損壊4棟、床上浸水535棟、床下浸水1,179棟でした。また、浸水による病院の孤立や鉄工所からの油の流出など、医療や産業への被害も大きくなりました。
治水対策によって浸水面積は減少していますが、被害金額や水害の密度は年々増加しています。1995年の被害金額は約1,622億円でしたが、2004年では約4,360億円と10年間で2.6倍い増加しています。また、水害密度(浸水面積1ha当たりの被害金額)をみると、1995年では約2,123万円なのに対し、2004年では約4,494万円と2倍以上に増加しています。水害の多発や規模の増大によって、被害が大きくなっていると考えられます。
なぜ、日本にこれほどの水害が発生するのでしょうか?その理由の1つとして、日本の地形が関係しています。日本の国土は山が多く、平地が少ないのが特徴です。そのため、限られた平地に人口が集中しやすくなっています。このことに加え、昔から水田農業が盛んな日本は、水田耕作に適した沖積平野の開発が進められてきました。その結果、日本全土の10%を占める洪水氾濫区域に、人口の50%が居住するという状態になっています。このような厳しい自然特性と社会特性が重なり合っていることから、日本では水害が起こりやすいと考えられています。
気候変動によって自然が凶暴化しているといわれています。実際、1時間に50mm以上の雨(傘が役に立たなくなるような非常に強い大雨)が降る回数が増えています。2000年~2009年の10年間で、1時間に50mm以上の大雨が降る回数は、平均で年220回になりました。ちなみに、1976年~1989年の10年間の平均回数は170回、1990~1999年の10年間では年193回です。激しい雨が降る回数が増加していることから、水害はさらに増加すると考えられています。
冒頭で述べたように、水害は予測して備えることができます。しかし、実際に備えている人が少ないのが現状となっています。2章では、その現状や備える方法についてみていきます。
台風や豪雨は、天気図を用いることによって何日も前から予測することができます。そのため、事前に対策を立てて備えることが可能です。1章でみたように、水害は自然災害の中でも発生しやすい災害ですが、予測が立てやすいという特徴から、比較的備えやすいということができます。
それでは、水害の備えに関する現状についてみていきましょう。損害保険ジャパン日本興亜による調査の結果から、水害への備えをしていない人、または不十分だとする人が9割以上いることが判明しました。
備えている内容に関しては、非常食・飲料水を常備している人が59%、携帯ラジオや懐中電灯などを常備している人が53%、避難所や避難方法を確認している人が42%と、半数近くの人が水害に対して備えていないことになります。
ハザードマップの認識や活用度に関しては、ハザードマップを見て自宅付近の水害リスクを確認している人が37%、ハザードマップを見たことはあっても水害のリスクまでは確認していないが24%、聞いたことはあるが見たことはない、もしくは、どこで見られるかわからない、知らないと答えた人が38%という結果でした。ハザードマップに認識や活用も十分とは言えない状況です。
「公的機関の情報を活用しよう!~ハザードマップ~」
https://www.bousai119.net/media/kiji.php?n=144
また、水害や土砂災害などの災害が発生した時に、どのような避難行動を取るべきかを5段階で示した「警戒レベル」が2019年5月末から運用されました。この「警戒レベル」の認識度について、約7割の人が「よく知らない、聞いたことがない」と回答したことから、認識度が非常に低い現状となっています。水害の被害を抑えるためには、「警戒レベル」の認識度を高めることが必要です。
以上のことから、水害への備えはまだまだ不十分であることが分かりました。水害は予測して備えることで被害を抑えることができるということを認識し、これからしっかりと備えていきましょう。
それでは、具体的に水害に備える方法についてご紹介します。
1.気象情報を確認する
まず、毎日天気予報をみて、台風や大雨、洪水情報をチェックしましょう。また、気象庁のホームページでは、大雨や洪水などの警報や注意報の情報が記載されています。その他、水害や土砂災害に関する情報は、国土交通省の「川の防災情報」で確認することができます。「川の防災情報」では、雨の降っている地域や川の水位に関する情報が確認できます。こういった情報を入手し、周辺んに危険がないかを確認するようにして下さい。
2.避難方法・場所を確認する
災害が発生した時に避難する方法や場所について事前に確認しておくようにしましょう。避難するタイミングについては、あらかじめ5段階の警戒レベルを確認しておき、どのタイミングで避難するべきかを決めておくことが大切です。避難場所への避難経路はハザードマップを活用し、安全に避難できる経路を決めておきましょう。また、避難する際に持っていく物も事前に決めておくことで、スムーズに避難することができます。
3.保険を掛ける
浸水や土砂崩れによって怪我を負ったり、家屋が倒壊してしまった時のために、必要な保険を掛けておきましょう。保険を掛けておくことで、いざという時の金銭的・心理的負担を減らすことができます。
4.補助金の制度を知っておく
家屋が倒壊した場合、条件が合致すれば、国からの補助金が支給される場合があります。どのような条件で支援を受けられるのか、またどれくらいの金額が支給されるのかといった制度の概要について知っておくと、いざという時に役立ちます。
以下、ご紹介した方法に関連するサイトを記載しておきます。
是非、活用してみて下さい。
〇気象庁「防災情報」
URL:https://www.jma.go.jp/jma/menu/menuflash.html
〇国土交通省「川の防災情報」
URL:http://www.river.go.jp/portal/#80
〇政府広報オンライン「警戒レベルについて」
URL:https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201906/2.html
〇国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
最後に、今までの内容を簡単にまとめました。もう一度確認して、水害にしっかり備えるようにしましょう。
・日本は、厳しい自然・社会特性によって水害が多発する
・気候変動によって自然が凶暴化しているため、水害はさらに増加する
・水害は予測して備えることができるが、実際には備えていない人が多い
・水害に備える方法
(1)気象情報を確認する
(2)避難方法・場所を確認する
(3)保険を掛ける
(4)補助金の制度を知っておく
・政府広報オンライン
河川の氾濫や高潮など、水害からあなたの地域を守る、「水防」
平成30年(2018年)6月12日
URL:https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201507/1.html
・SAFETY EYE NEO
特集:「世界の洪水リスクの現状と将来見通し」No.12
2015
URL:http://www.icharm.pwri.go.jp/staff/pdf/imamura/120.pdf
・JICE 一般財団法人 国土技術研究センターHP
URL:http://www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary10
・水害への備え9割「不十分」 損保会社調査 ハザードマップ活用低調
2019.8.2. 読売新聞