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非常用持ち出し袋について考える(下) ~あなたにとって、適切な非常用持ち出し袋とは?~

(上、中)のまとめ

 (上)では手提げ袋、ショルダーバッグ、リュックサックのそれぞれの袋について、人体に与える影響についてみてきました。心身の負担が比較的少ないリュックサックで荷物を運搬するのがおススメであるという結論を出しました。

さらに(中)ではリュックサックを選ぶ際の注意点としては、

1.締め付け過ぎないもの(特に胸周り)

2.肩ベルトの幅が広いもの

3.自分の体型に合ったもの

があります。つまり「身体に圧をかけすぎず、かけなさすぎず」が重要ポイントで、身体へのフィット感や安定感がポイントとなります。

3.リュックサックの荷重量について

心身の負担が少ないリュックサックを選んだら、次はリュックサックの荷重量について考慮する必要があります。いくら運搬するのに負担の少ないリュックサックでも、荷重量が多すぎると心身への負担が増大してしまいます。

そこで、本章では、リュックサックの荷重量の違いが身体に及ぼす影響について述べ、最適な荷重量はどのくらいかについて考えていきたいと思います。

 

3-1.体重の5%の荷重量

体重の5%の荷重量を背負った場合、姿勢が改善する効果があることが報告されています。1章3項のリュックサックのポジティブな効果で述べた通り、リュックサックの荷重が掛かることによって骨盤が前方に傾き、姿勢が矯正されます。

3-2.体重の10%の荷重量

体重の10%の負荷が掛かった場合の酸素摂取量は軽い上昇にとどまり、心拍数においても影響が極めて少ないことから、循環機能の面において負担やストレスが小さいことが報告されています。

3-3.体重の15%以上の荷重量

体重の15%の荷重量を背負った場合、5%の負荷量と同様、骨盤が前方に傾く反応が見られます。しかし、15%の荷重量は負荷量が大きく、その分重心が身体の後ろに傾きがちになります。人は、姿勢を一定に保とうと腹筋を使いますが、それだけでなく腰を屈めて重心を前に移動させようとします。その結果、腰部にも負担が掛かるリスクが生じるので、体重の15%の負荷は避けるべきと研究者が報告しています。

また、別の研究では、体重の20~40%の荷重量を背負った場合、頭部と体幹が前方に傾くと言われています。荷重量が大きくなって身体が前方に傾くと、椎間板への負担が増加すると言われています。その他、荷重が大きくなるにつれて、肩中央部や肩甲上部、鎖骨部、腰椎部に荷重圧が高くなることも報告されています。

 

3-4.最適な荷重量は?

以上のことから、身体への負担が大きい体重の15%以上の荷重量は避けた方が良いと思われます。

最適な荷重量としては、体重の5%~10%を目安とし、身体が前傾せず、肩への圧が掛かりすぎない重さが、あなたにとって最適な荷重量と言えるでしょう。体型や筋肉量、持久力など、人によって個人差があります。そのため、実際に背負ってみて、負担の程度を確認しながら荷重量を決めることで、背負った時の負担を小さくすることができると思います。

 

4.まとめ

最後に、非常用袋を用意する時のポイントをまとめておきます。

 

1.運搬は負担の小さいリュックサックで

2.リュックサックは、肩ベルトが幅広く締め付け過ぎないもの、そして自分の体形に合ったものを

3.リュックサックに入れる荷物は、体重の5~10%の量を目安に

 

災害が発生すると、車や交通機関での移動が困難になり、避難時には重い荷物を自分で運搬する必要が生じるかもしれません。その時に、少しでも負担を小さくできるよう、工夫して準備しておくようにしましょう。

リュックサックは、非常時だけでなく日常的にも有用な運搬具です。荷重量が少なく低負荷であれば、歩く時のエネルギー消費量も小さくなり、姿勢の矯正や腰痛軽減など、リュックサックを使うことでポジティブな効果がみられます。普段からリュックサックを使う習慣を身につけ、小さな負担で荷物を運ぶようにしましょう。

 

参考文献・サイト

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リュックサック使用が歩行動作の運動学・運動力学的変化に及ぼす影響

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理学療法科学 29(6)923–926 2014.

 

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リュックサックの違いが呼吸機能に及ぼす影響.

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中高年にみるリュックサックの有用性について.

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10)黒木裕士,森永敏博,鈴木康三,角南昌三

体幹重錘負荷の歩行時酸素摂取量ならびに心拍数におよぼす影響.

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11)森由紀,大村知子,大森敏江,木岡悦子

小学生の学習用具の携行方法と負荷について.

日本家政学会誌 50 (9) 949-958 1999.

 

 

一般社団法人全日本防災計画協会

黒田尚寛

阪神大震災に被災した方の話を聞くにつれて、地震のあまりに大きい被害を知りました。
また、その反面、人々が協力し合って、災害を乗り越えた話を聞き、心強さも感じました。
これから起こりうる自然災害からたくさんの人を助けたい、そう強く考えております。
その為に自分は何が出来るのか、日々模索し、鍛錬を積んでいきたいと考えております。

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